設立趣旨

 

“21世紀は心の時代”などと久しく唱われてきた。
そのような時代の潮流もあり、心理学の分野では、臨床心理学ならびに心理療法が発展した。
また、医療分野では、精神科や心療内科が、たとえば、SSRIなどの新抗うつ薬の日本への導入ともあいまって、注目された。
しかるに、心の問題や精神の荒廃に関する社会に不安や混迷を与える話題は尽きない一方であるが、それと比べ、心の平安、精神性の向上に関する成果獲得の実感は、かなり乏しいのではないであろうか。ある意味、“心の喪失の時代”になっているのは誠に残念である。

時代が切実に求めている心の問題(もしくは、心身の問題)が、現場での多くの人々のたゆまぬ努力があるにも拘らず根本的に進展、改善しないからには、
初心に戻って根本的な心の問題と向き合う姿勢を問い直し、再構築する必要がある。
代表的なものとして、たとえば、以下の三つの姿勢の変革に取り組まなければならない。

一つには、心を脳の機能的な障害への単純な還元的姿勢である。
対処療法的な心理療法や精神薬の投与に限界があることの認識が不可欠である。
逆に、脳の問題から心の問題への還元的姿勢も、ともすれば精神主義に陥る危険性があり、同様に問題である。
内面と外面、心理と生理、主観と客観は、本質的には表裏一体ではあるが、どちらか一方に還元されるべきものではない。
違いの存在論的な理解が重要であり、不用意な混同は有害ですらある。
それぞれの領域には、それぞれに適切な特性を持つ手法が、全体としては統合的に適用されるべきであるという認識が必要である。

二つには、身体性の軽視ないしは無視である。
これには従来の臨床心理学が言語的アプローチに偏重している問題が含まれる。
長らく広く心理学において、専らの関心は、認知機能を司る脳の新皮質の働きであった。
しかしながら、21世紀は、たとえば、情動、共感、愛着、社会的関与などの概念を手がかりとして、脳の認知的•言語的機能との非認知的•非言語的機能との統合、そして“非脳”の身体的インテリジェンスとの統合の観点から、ホリスティックな心身統合の探求が求められている。
これは従来の叡智や功績を何ら否定するものでは無く、包括する姿勢なのである。

三つには、対応領域間、学問分野間の不通である。
臨床心理学、精神医学、心身医学、身体技法(ソマティックス)と総称されるボディワーク、ダンス/ムーヴメント等間の交流、コミュニケーションが求められている。
また、身心一如と総括される東洋の修行論や、高齢化する社会において注目される、終末医療、グリーフケア、スピリチュアルケアを含む、広く宗教学ないし死生学との連携も、心と身体の関係性の探求において必要不可欠である。
身体•感情•心理•精神(または霊性、魂)に、それぞれ対応する学問や実践を統合的な視点からの調和の獲得が求められる。

したがって、これからの心(または、心身)の問題に対するより根本的な対応は、三つの基本姿勢のすべてを包括•統合するものでなくてはならない。
その重責の一翼を担いうるのが、広義の意味でのソマティック心理学であると考える。
“ソマティック”とは生きている身体、または身体性を意味するので、ソマティック心理学とは身体心理学となる。
まさしく、心身の統合体としての人間存在をインテグラルに理解しようと試みる、古くかつ新しい学問であり、実践である。
従来の心理学の枠を、含んで超える領域である。

本協会は、その目的に学術的かつ実践的に近づくための重要な援助的な役割(いわば産婆としての)を果たせる開かれた包括的、象徴的な存在となることを期して、このたび設立するものである。
その三つの柱として、ソマティック•エデュケーション(身体教育)、ソマティック•サイコロジー(身体心理学)、ソマティック•スピリチュアリティ(身体的霊性)の領域を設けたい。

誕生したばかりの協会であるが、広く時代に共有する意識と危機感と希望を抱き、同じ方向に歩む志ある個人、そして他のさまざまな団体組織とも協調しながら、多くの人と社会の幸福と発展に包括的な貢献ができることを切望する。
そして、新しい心と身体を獲得することで、“21世紀は心身統合の時代”であることをここに宣言したい。

 

2014年4月1日