第5回大会演者 抄録・プロフィール: 大橋容一郎

大橋容一郎
(大会実行委員長/上智大学文学部哲学科教授)
演題: オープニング講演「認識論から見た身体」

 


要旨:

知の理論を補完し現代の問題へ展開しようとする試みは、従来の記号情報や認知では捉えきれない「情動」や「身体」についてのさまざまな理論や実践的療法を産みだし、いまや百花繚乱の状態となりつつある。身体に関する個別的な技術方法論の探求や社会実装は、特に実践的な療法ではたいへん好ましいことである。その一方で、自らの方法論が問題全体を掌握しているという認識論的な過誤に陥りやすいのも、人間の常であろう。身体とはそもそも何かという、問題の本質への顧慮とそれに基づいた各方法論への批判的吟味は、技術的方法の開発と同じ比重で欠かせないものである。この講演と引き続いての分科会ではそうした見地から、実践的な技術論ではなく、身体知の本質、身体性の特徴などの基本的問題を考えてみたい。提題ではとりわけ身体表現としての身体知の理解について、いくつかの視点を提示したいと考えている。

【プロフィール】

大橋容一郎(おおはし よういちろう)

上智大学文学部哲学科教授。専門は近世現代哲学・認識論・科学論・ケアの哲学。身体・知覚・意識などの知の特徴について、認識論の観点から原理的に考察するとともに、近代的な知の理念と現代のケアや身体知との関係、それらの原理とケアリングや看護などの実践との関連についても考えている。主たる業績:『カント全集』『フィヒテ全集』『広辞苑』『哲学思想事典』「ケアの哲学」「身体知とは何か」等。